
仕事ではもちろん、日常生活においても、「締め切り」に縛られた経験がないという人はほぼいないのではないだろうか。そして人はしばしば、突発的な事情やタスクオーバーなどの理由で締め切りを守れない。だが、締め切りを守れない真の理由は、私たちが普段あまり意識しない「時間の本質」にあるようだ。
本書では、「締め切りを守れない」という現象を足がかりに、人が「時間」をどう捉えているのか、「いい時間」とはどんな時間で、それをいかにつくっていくかなどを、哲学、社会学、歴史学、人類学などの理論を援用しながら深く論じている。私たちが〈生きている時間〉は、スムーズに一定の間隔で刻まれるわけではない。個々の生き方のペースやさまざまな事情によって自然な時間の流れの感じ方は異なる。一方、締め切りは時計が刻む一定の流れ通りに定められる。両者のずれが、締め切りを守られ難くさせているのだという。著者は1994年生まれの美学者。専門は、分析美学とポピュラーカルチャーの哲学。著書に『物語化批判の哲学』(講談社現代新書)などがある。

