

人間に近い、時に人間を凌駕する能力を発揮し、人間固有と思われていたさまざまな能力を代替する可能性を持つAIの台頭は、私たちに「人間とは何か」という根源的な問いを投げかけているともいえる。その問いに答えるための思考を促す、20世紀の古典的名著がある。ハンナ・アーレントの『人間の条件』である。

本書は、2025年に没後50年となる著者が1958年に発表した代表作『THE HUMAN CONDITION』の英語第2版(2018年)の新訳。労働(labor)、仕事(work)、活動(action)という三つの行為様式から、人間を人間たらしめる条件を、西欧思想史を踏まえながら詳細に分析し、独自の政治理論を展開している。三つの行為様式の中でも「活動」は、唯一、直接的に(事物を介さず)人と人との間で行われるものであり、「言論」を媒介して自己のアイデンティティを開示することで新しいことを始めるものだ。著者のハンナ・アーレント(1906-75)は、米国の政治理論家、思想家。ドイツの同化ユダヤ人家庭に生まれ、1933年にナチスの迫害を逃れてフランスへ、1941年には米国に亡命した。他の著書に『全体主義の起原』『過去と未来の間』『エルサレムのアイヒマン』『精神の生活』などがある。