

アンゲラ・メルケル元独首相は、その16年間の任期中、科学者ならではの合理的思考や調整能力からなる卓越したリーダーシップを発揮し、ギリシャ債務危機やユーロ危機、難民危機といった数々の難局を乗り越えた。自由や人権、民主主義を擁護するその政治姿勢は、今でも世界の模範となるものといえる。

本書は、メルケル元独首相が自らの生い立ちと政治家としての活躍など、67年にわたる半生を語る壮大な回顧録。下巻では、メルケル氏が4期にわたる首相在任中に、世界金融危機、ユーロ危機、ウクライナやジョージアのNATO加入、環境・エネルギー、パンデミックといった解決困難な諸問題に対しどのように考えて政策を打ち出すとともに、外交面で成果を上げていったかを振り返る。ダイジェストでは、2005年11月22日から2015年9月4日までを語る第4部(p10~p153)と2015年9月5日から2021年12月8日を回顧する第5部(p156~p369)の中から、批判の声はあるものの、2015年に自身が「EUに関する問題としては、少なくとも私の在任期間中で最大の課題」と発言し、その取り組みが世界に大きなインパクトを与えた「難民受け入れ」の政策過程におけるいくつかのエピソード(p139~p167)を抜粋、再構成した。著者のメルケル氏は、ドイツ連邦共和国の最高権力の座に就いた最初の女性として2005年から2021年まで連邦首相を務め、同年に政治活動から引退した。