シンガポールの公共住宅が持つ「諸刃の剣」とは
『シンガポールの「公共住宅政策」』
Public Subsidy, Private Accumulation: The Political Economy of Singapore’s Public Housing
1.シンガポールはなぜ公共住宅を優先するのか
2.さまざまな制度による住宅供給の状況
3.国の公共住宅政策
4.「必要なもの」を「市場商品」へ
5.退職資産としての公共住宅
6.残された人のための残された住宅
7.政治と公共住宅所有:「顧客」から「権利を行使する国民」へ
近年経済成長著しいシンガポールは、国土が小さく人口密度が高い国の一つに数えられる。一方で国民の9割が住宅を所有しているという、世界的に見ても稀な「持ち家」率の高さを誇る。今日、国民の大部分は政府が提供する公共住宅に住んでいるが、そこにはどのような政策と国家的意図が働いているのか。
シンガポール国立大学出版局から刊行された未邦訳の本書では、シンガポールの公共住宅制度、その特徴と仕組み、そしてシンガポールの政治におけるその位置づけを考察している。低価格の公共住宅を多く設立することで、住宅不足の解消を狙う公共住宅プログラムは、1959年に英国から自治権を勝ち取った当初より続けられている。この住宅への支援制度が人民行動党政府の公約の中核をなしており、国民の支持を得るための切り札として使われている面もあるようだ。著者のチュア・ベン・フアット氏はシンガポール国立大学名誉教授であり、現在はシンガポール経営大学の客員研究員。