

大きな世界シェアを誇る日本のものづくり企業の一つにYKKがある。衣服やカバンなどに使われる「ファスナー」とその関連商品を提供する非鉄金属メーカーとして有名だ。72カ国に計約4万5000人の社員を擁する同社は、1934年の創業以来「善の巡環」という独自の理念のもとグローバル展開を図っている。

本書は、YKK創業者の𠮷田忠雄が掲げた「善の巡環」に基づく独自の経営の仕組みについて分析している。YKKは世界規模の実績のある大企業にもかかわらず、株式上場していない。「社会的信用は上場によってではなく、みずから創り上げることである」という創業者の考えに由来するのだという。その代わりに従業員持株会が「筆頭株主」になっており、会社は株主のものではないとする「ステークホルダー資本主義」を、90年近く前から体現する。また、使われる衣服などによって色や形状が変わるファスナーの性質上、量産が難しいとされていたが、YKKではそれを可能にする一貫生産体制を構築している。著者は白鷗大学名誉教授、中央大学博士。研究領域は多国籍企業論、国際経営論、経営倫理で、『すべてはミルクから始まった』(同文舘出版)などの著書がある。