

日本近代文学を代表する作家の一人に、芥川龍之介がいる。「芥川賞」にその名をとどめ、「羅生門」「鼻」「蜘蛛の糸」「トロッコ」といった数々の名作でも知られる。芥川龍之介は近年、村上春樹と肩を並べるほど世界中で読まれるようになっており、従来のイメージも大きく変わってきているという。

本書では、2022年に生誕130年・没後95年となり、近年はその作品が「世界文学」として読まれる芥川龍之介について、最近になって発見された新資料などをもとに考察。陰鬱で社会に無関心、人生に敗北した作家といった従来のイメージを覆し、時代の証言者であり「時代を拓く人」という「新しい芥川像」の構築を試みる。1921年に中国を訪れた際に激しい反日感情に驚き、帰国後検閲をかわしながら作品に反映させる。あるいは1923年の関東大震災後に人々を勇気づける文章を発表するなど、芥川は常に時代と社会に向き合ってきたようだ。著者は都留文科大学名誉教授。文学博士。芥川龍之介研究の第一人者で『世界文学としての芥川龍之介』(新日本出版社)、『芥川龍之介』(岩波新書)、『芥川龍之介とその時代』(筑摩書房)など多数の著書がある。