コロナ禍は、エンターテインメント業界にも打撃を与えた。劇場やライブハウス、寄席、映画館は、客席の間を離すなどの感染予防対策が求められ、収益減、本来のかたちでの上演ができないなどの影響があった。だが、そもそも客席の間の「距離」は客の盛り上がりや満足度にどう関係しているのだろうか。
本書では、ライブハウスや寄席などを含む「劇場」における「距離」の問題にフォーカス。舞台と客席の間、客席と客席の間がどれだけ離れているかが、演者のパフォーマンスや、それに対する客の受け止め方、会場の熱気などにどのように関わるかを、「劇場認知科学」という著者が開拓した新しい研究領域の成果をもとに解き明かしている。たいていの劇場では、舞台と客席の間は離れており、(コロナ禍以前では)客席同士は近い。その理由を知るヒントに「情動伝染」という現象があるという。著者は、認知科学者、数理生物学者、早稲田大学人間科学学術院准教授。2020年から早稲田大学人間科学学術院にて「劇場認知科学ゼミ」を主宰する。大学時代は落語研究会に所属し、研究者となってからは認知科学の手法で「落語とは何か」を追究しつづけている。